公民館における情報リテラシーの育成
「ポストIT講習」


平成14年10月22日(火)
国立教育政策研究所教育実践研究センター
生涯学習の情報化に関する研究セミナー
事例発表原稿(抄)

1 はじめに 〜ポストIT講習の生い立ち

 平成12,13年度は全国でIT講習が行われました。みなさんご存じのように、12時間の講習でインターネット、メールが出来るようになることを目指すものでした。人口が約八万九千人の芦屋市では、150講座開催し、約2,600名が受講され、平均倍率約3倍、最高倍率約16倍という受講・応募状況でした。当時、公民館に転勤したてだった私も、日々たくさんの電話の問い合わせに追われていたのを覚えています。

 さて、これだけたくさんの初心者の方がパソコンを使い始めると、当然、「近い将来、ステップアップの講座が早急に求められるぞ。」という予測が立ちます。実際年度末にアンケートを集計すると、受講修了者の8割ほどの方が、ステップアップ講座の実施を希望されていました。
 民間のカルチャーセンターなどでは、IT講習が始まってからすぐに、「IT講習修了者対象」とか、「ステップアップ講座」と銘打って、「○○中級」→「○○上級」→「○○資格取得クラス」…といった講座が開設されていきました。これらはいわゆる「パソコンやソフトの講習」です。当然、同様の講座を公民館でも実施することも考えられたのですが、それでは単に民間業者と競合するだけです。社会教育の現場を担う公民館としては、「ITリテラシーを身につけてもらう」というIT講習の趣旨を活かした講座を実施したいと考えました。そのための方策を色々検討した結果、後述するような特徴を備えた「ポストIT講習」シリーズを立ち上げました。平成13年9月開催の「広報係さん いらっしゃい講座」(Wordを使ったDTP講座)を第一弾に、現在に至っています。

2 いかに「ITリテラシー」を身につけてもらうか

 ポストIT講習を企画する時に念頭に置いたのは、「ITリテラシーを身につける必要に迫られるように講座を組み立てていこう」という事でした。そのため、各講座のテーマをソフトやコンピュータの操作ではなく、新聞や年賀状、ホームページなどの「作品を作る」というように設定しました。そのことにより、作品を作る過程において、自然とITリテラシーが身に付くことをねらいました。実際にどのようなテーマで講座を行ったかは、講座サポート用ホームページhttp://www.isaonagayoshi.com/kominkan/index.htmlをご参照下さい。

 企画が出来たら募集を行いますが、ポストIT講習に関しては、応募受付は、Web上からのみに限定しました。また、当選通知や、必要物等の諸連絡は、電子メールで行いました。同時に各講座のサポート用ホームページを立ち上げ、受講生にあらかじめURLをメールでお知らせしました。講座用ホームページは、講座のテキスト、講座用電子掲示板、参考資料へのリンク集などで構成されています。テキストのページには講師の先生がテキストの執筆を終えたものからデータを送付してもらい、PDF形式でファイルをアップロードし、参考資料と併せて、受講生があらかじめ予習出来る様にしました。中には、担当者の予想を超えた受講生の方がおられたケースもありました。年賀状作成講座での事ですが、初日に白黒印刷したテキストを配布しようとしたら、ほとんどの方がホームページからテキストを全てカラー印刷してお持ちになられていて、思わず目が点になったことがありました。

 講座の運営は、教室での講義と自宅での宿題の二本立てで行いました。まず、受講生は教室で講師の先生から基本の操作を学びます。その後、その技術を元に自宅で宿題に取り組み、次の時間に発表するという形をとりました。自宅で宿題に取り組んでいると、分からないことが出てきて困ることがあります。そのような時、電子掲示板が役に立ちました。掲示板に「△△はどのようにすれば…」と、質問を書き込みます。あらかじめパスワードによって保護をかけていますので、関係者しか閲覧できず、安心して書き込みが出来ます。質問を見た講師や担当者は「それなら、○○すれば…」と返事を書き込みました。質問によって、講座用ホームページに新しい参考資料を増やしたケースもありました。そのうち、受講者同士でも質問や答えの書き込みが行われるようになりました。なれてくると、だんだん雑談や、遊びや自主的な学習会の打ち合わせなども掲示板上で行われるようになり、受講生同士のつながりを深める効果も生まれました。印象に残っている書き込みをいくつか紹介します。http://www.isaonagayoshi.com/siryou/ita/index.htmをご覧下さい。

 こうして、無事宿題ができあがりますと、講座の性質にもよりますが、添付ファイルで作品を送付してもらい、ホームページ上にアップしていきました。人の作品を見ることによって刺激を受け、さらにグレードアップさせた作品を送ってくる方も現れました。また、講座の時間に鑑賞会を開き、相互質問会の時間を設け、受講生同士の交流に活かすことも出来ました。

 このように講座の運営をした結果、はじめはキーボードをたたくのもやっとだった受講生の方が、最終回にはすばらしい作品を残して卒業してゆかれました。卒業作品の内、本人の承諾を得たものは講座用ホームページhttp://www.isaonagayoshi.com/kominkan/index.htmlに掲載しています。この講座用ホームページは掲示板以外、テキストや資料、作品などをどなたでも見ることが出来るようになっています。

3 教わる側から教える側へ

 今年度に入り、ポストIT講習も2年目を迎えました。おかげさまで多くの方から、「今年もぜひ同様の講座を企画してほしい」という声をいただけるようになり、再び同様の講座を企画しました。そのときに、掲示板を通して、アシスタントの講師を昨年度の受講生方々からも募集しました。「人に教えると自分の勉強にもなるよ。」と誘い文句をつけてみたところ、結構応募がありました。中には、「講師料はいらないからやらせてくれ」という奇特な方や、受講生以外からの売り込みもあり、そういった方々をアシスタントに迎え、講座を進めました。

 実際にアシスタントをされた方は一様に「ものすごく勉強になるわぁ。」とおっしゃります。人に教えるためには、講座の内容について、時間までに自分の頭の中にたたき込んでおく必要があります。また、質問されて答えられない事があると、自分の弱点が分かると同時に、次の時間までにもう一度調べなおす必要が生じます。これらの作業が、自らのITリテラシーのさらなる向上に役立つのです。


4 おわりに 〜人と人のつながりを忘れずに

 さて、ここまでポストIT講習の取り組みについて述べてきましたが、ITリテラシーの向上だけがこの講座のねらいではありません。人と人のつながりを作り、深めていくことを忘れてはいけません。実際、講座によっては、講座終了後も掲示板でのやりとりが続き、受講生同士のつきあいが続いているケースや、有志で自主グループを結成し、現在も学習活動を続けているケースもあります。例として、「広報係さん いらっしゃい講座」から生まれた「むじな学級」と、「Webでデジカメ」という講座から生まれた「芦屋デジカメクラブ」のホームページのURLを紹介しておきます。

「むじな学級」http://kobe.cool.ne.jp/mujinaclass/
「芦屋デジカメクラブ」http://www.kcc.zaq.ne.jp/dfcsp408/

 今後このような学習グループのホームページが増えれば、公民館のホームページからリンクを張るだけで市民の方に学習情報を提供することが出来ます。公民館講座はもちろん、様々な場面で市民がお互いに支え合い、つながりあっていくことに役立ちます。
 同時に、このような取り組みは担当職員にITスキルがなければ出来ないものではありません。コーディネータとして、いかに需要と供給の情報をつかみ、双方にとって良い出会いを生み出していくか。公民館職員としては、そのことが一番大切だと思っています。ホームページや掲示板の設置方法が分からなければ、職員が講師の方に質問するくらいの気持ちでいればいいのです。それがまた、人と人のつながりを深めていくことになると思います。

 今後追求したいテーマとしては、まず第一に、受講生出身のメイン講師育成があります。初心者だった受講生がアシスタントを経て、メイン講師を勤めるようになった時、ITリテラシー向上と、人と人のつながり作りを目指したポストIT講習は、一つのサイクルを完成させる事になると思います。
 二つ目は、学社融合への応用です。たとえば、現在、学校現場でのコンピュータの導入が声高に叫ばれていますが、実際問題として、進度やスキルの違う40名ほどの生徒を一人の教師で面倒を見るのはかなりの負担です。そのような時に、アシスタント的な市民が数人授業に入ることが出来れば、生徒にとってはよりきめ細やかな指導が受けられ、教師にとっては負担の大幅な減少につながり、市民にとっては教える喜びとスキルアップが期待できます。

  学社融合については、実験的な取り組みとして、ポストIT講習からは少しはずれますが、先日、芦屋市のACパソコン倶楽部(芦屋市の老人大学のOBの有志によるグループ)と芦屋市立潮見中学校の技術部の交流を行いました。概要については、http://www.isaonagayoshi.com/yuugou/index.htmで紹介していますのでご覧下さい。今後、このような事例を積み重ねる事によって、世代間交流及び、学校と地域社会のより深い交流にもつながることが期待できます。

 人と人の交流を促進するための手段は様々あると思いますが、その中の一つとして、このポストIT講習での取り組みが何らかの役に立てば、それが公民館職員として一番の喜びであります。私の勤務する公民館のキャッチコピーは「公民館ですてきな出会いを」です。

参考資料

○12年度秋の講座 インターネット中級−ホームページを作ろうのHP
http://ashiya.hp.infoseek.co.jp/
○IT講習修了者のためのホームページ
http://kominkan.hp.infoseek.co.jp/
○ポストIT講習講座「芦屋方式」
http://www5b.biglobe.ne.jp/~bun-bun/postIT/index.html
○ポストIT講習のとりくみ
http://www5b.biglobe.ne.jp/~bun-bun/postIT/postit01.html
○むじな学級のHP
http://kobe.cool.ne.jp/mujinaclass/
○芦屋デジカメクラブのHP
http://www.kcc.zaq.ne.jp/dfcsp408/
○芦屋市立公民館 講座関係のホームページへのリンク
http://www.isaonagayoshi.com/kominkan/index.html
○芦屋市立公民館 ポストIT講習電子申し込みシステムのページ
http://isaonagayosh.s3.xrea.com/
○みんなで活かそう! コンピュータ!!
http://www.isaonagayoshi.com